サポーターコラム

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相続登記義務化と、相続土地を国に帰属させる新制度

所有者不明土地問題を解消すべく、令和3年4月21日参院本会議で「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(土地国庫帰属法)」が可決成立しました。
第1.相続登記の義務化
これまで、権利の登記(売買や相続による所有権移転登記など)をするかしないかは、皆様の自由でした。ところが、この自由が所有者不明土地を発生させているということで、一部の登記が義務化されます。

1.相続登記
原則:3年以内【1】 ペナルティ:10万円以下の過料【2】
例外:相続人申告登記【3】
施行予定:2024年

2.住所氏名変更登記【4】
原則:2年以内【5】 ペナルティ:5万円以下の過料【6】
例外:例外なし
施行予定:2026年
【1】所有権登記名義人に相続が開始したとき、所有権を取得した者は、自己のために相続開始があったことを知り、かつ、所有権取得を知った日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければなりません。遺贈も同様。法定相続登記後遺産分割した場合も同様。代位登記された場合は除外(改正不登法76の2)
【2】怠ったときは10万円以下の過料です(改正不登法164Ⅰ)。過料は、行政罰であって、刑事罰ではありませんので、過料が課されたからといって、前科がつくものではありません。
【3】相続登記義務を負う方は、法務省令で定めるところにより、相続開始した旨と自分が相続人(の一人)である旨を申し出ることができます。3年以内にこの申し出をした者は、相続登記義務を履行したものとみなす。登記官は職権で、申出者の住所氏名などを付記登記する。申出した者は、遺産分割成立後3年内に所有権移転登記を申請しなければなりません(改正不登法76の3)。遺産分割の協議、調停や訴訟をやっている間に3年が経過しそうになった場合には、この申し出をすれば良いことになります。
【4】引っ越しで住所が変わったとき、ご結婚・離婚などで氏が変わったとき、名の変更を行なったときには、市役所に届出をします。ところが、市役所のシステムと登記所のシステムは統合されておりませんので、市役所に届出をしても、登記所に管理されている登記名義人の住所や氏名が自動で変更されるわけではありません。そこで、登記所に対して住所氏名変更登記を申請する必要が生じるのです。
【5】住所氏名に変更があったときから2年以内に変更登記必要(改正不登法76の5)
【6】怠ったときは5万円以下の過料(改正不登法164Ⅱ)。過料は、行政罰であって、刑事罰ではありませんので、過料が課されたからといって、前科がつくものではありません。

第2.改正不動産登記法
相続登記の義務化と同時に、導入される新制度を概説します。

1.所有権登記名義人が死亡したであろうとき(法務省令で定める)には、職権で、同所有権登記名義人に符号を表示できる(改正不登法76の4)。

2.DV被害者などの住所の登記方法に関する特例(改正不登法119Ⅵ)

3.手続き簡素化
⑴ 遺贈による相続人への所有権移転登記は、受遺者単独で可能になる(改正不登法63Ⅲ)
⑵ 買戻特約が10年経過したときは、登記権利者単独で抹消登記可能になる(改正不登法69の2)
⑶ 通常の相続登記が簡単にできるようになった訳ではない。

4.所有不動産記録証明書
⑴ 誰でも自己が所有者として登記されている不動産に関する記録(名寄せか?)の交付請求が可能になります(改正不登法119の2)
⑵ 被相続人のものも取得できるようになります。
⑶ 裁判所の判決がある場合などに債務者の所有不動産を名寄せできれば、より利用が広がるかもしれません。

第3.改正民法
所有者不明土地問題を解消すべく民法も改正されます。同時に導入される新制度を概説します。
1.共有不動産の所在不明共有者の解消
不動産の共有者は、所在不明の共有者がいる場合、
├裁判所に請求して、所在不明共有者の持分を自ら取得可能(改正民法262の2)【1】
└裁判所に請求して、所在不明共有者の持分を自己持分とともに第三者に売却可能(改正民法262の3)【1】
【1】所在不明共有者は、持分の時価相当額の支払いを請求できる(改正民法262の2Ⅳ、262の3Ⅲ)ので、裁判所は供託を命じることになります(改正非訟事件手続法87、88)。

2.所有者不明土地管理命令・所有者不明建物管理命令の新設
 裁判所は、利害関係人の請求により所有者不明土地管理命令をすることができる(改正民法264の2Ⅰ)。
①命令するには所有者不明土地管理人を選任必要(改正民法264の2Ⅳ)
②権限外行為許可制度(改正民法264の3Ⅱ)
③所有者不明建物についても同旨規定(改正民法264の8以下)
④所有者不明土地管理命令があった場合には、その旨登記される(改正非訟事件手続法90)

3.管理不全土地管理命令・管理不全建物管理命令の新設
管理不適当で他人の権利が侵害又は侵害おそれがあるとき、裁判所は、利害関係人の請求により管理不全土地管理命令をできる(改正民法264の9Ⅰ)
①命令するには管理不全土地管理人を選任必要(改正民法265の9Ⅲ)
②権限外行為許可には所有者の同意必要(改正民法264の10Ⅲ)
③管理不全「建物」についても同旨規定(改正民法264の14以下)
④ゴミ屋敷対策に使えるのではないかと期待できます。

4.相続開始後10年経過すると特別受益・寄与分の主張はできなくなる(改正民法904の3)
例外①相続開始後10年経過前に家裁に遺産分割請求していたい場合
例外②遺産分割できないやむを得ない事由があったとき、やむを得ない事由が消滅した時から6か月以内に家裁に遺産分割請求した場合
相続開始後10年経過した遺産分割調停・遺産分割審判の取下げには、相手方の同意を要する(改正家事事件手続法273、同199)

5.相続財産管理人の名称は、「相続財産清算人」に変更される(改正民法936、952―958)

第4.相続等により取得した土地を国へ渡せる制度の創設(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律。略称「相続土地国家帰属法」)2023年施行予定
1.メリット
これまでは、相続放棄でも不要な土地を第三者に押しつけることは可能でしたが、相続放棄は全相続財産の放棄であって一部の不要な不動産を選ぶことはできませんでした。「特定の不動産を『相続』させる」【1】旨の遺言をされると、その不動産を欲しくなければ、相続放棄をすることしかできませんでした。
【1】比較。「特定の不動産を『遺贈』する」であれば、特定遺贈の放棄をすることで、その不動産の権利を放棄することはできました。

2.要件(は凄く厳しいです。)
⑴ 相続等により土地所有権の全部・一部を取得した者【1】
  例外:共有不動産の場合には、全員揃ったときのみ承認申請できるが、共有者中の一人に相続が発生すればよく、他の者は相続等により取得したことは要件でなくなる。
【1】今持っている土地が対象になるわけではなく、相続等を契機に取得した土地のみが対象です。
⑵ 次のいずれかに該当していない土地(相続土地国家帰属法2、5)。
① 建物のある土地
② 担保権(抵当権など)または用益権(地上権・永小作権など)が設定されている土地
③ 通路やそのほかの人による使用が予定されている土地として政令で定める土地が含まれている
④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地
⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
⑨ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
⑩ 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

3.手続
⑴ 法務大臣への承認申請、審査手数料の納付(相続土地国家帰属法3)
⑵ 要件を充たしているか審査、実地調査、承認申請者からの調査・追加資料提出(相続土地国家帰属法6)、関係行政機関への資料提供要求(相続土地国家帰属法7)、承認に関する財務大臣・農水大臣の意見聴取(相続土地国家帰属法8)
⑶ 承認の通知(相続土地国家帰属法9)
⑷ 負担金(10年分の管理費)の納付(相続土地国家帰属法10)
⑸ 相続土地が国有財産になる(相続土地国家帰属法11)

これら新制度の詳細は、明らかになり次第、当グループメディアで順次公開する予定です。

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